仕事の関係で、一時期時代小説ばかり読んでいたことがありました。元々読書好きではありましたが、時代小説はあまり縁のなかったジャンル。それでも、はまったのは池波正太郎さんですね~。飲み食いが好きなことで知られている作家さんですから、所々に出てくる食のシーンがしみじみといいのです。作者逝去のため未完で終わった藤枝梅安シリーズなど私は特に好き。独り者の梅安が相棒の彦次郎を部屋に呼んではもてなす料理など、たまらんです。何がたまらんって、私は池波さんの作品を読むたびに日本酒が飲みたくなっちゃうんですよね~。

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梅安と彦次郎は、居間の長火鉢に土鍋をかけ、これに出汁を張った。笊に、 大根を千六本に刻んだのを山盛りにし、別の笊には浅蜊の剥き身が入っている。
鍋の出汁が煮えてくると、梅安は大根の千六本を手づかみで入れ、浅蜊も入れた。刻んだ大根は、すぐさま煮えあがる。 それを浅蜊とともに引きあげて小皿へとり、七色蕃椒を振って、二人とも、汁といっしょにふうふういいながら口へはこんだ。
(池波正太郎「梅安晦日蕎麦」)
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ふふふ…。どうです? 旨そうでしょう? で、飲みたくなりませんか? 日本酒。


L'art de Vivre-みをつくし料理帖
 と、随分前書きが長くなっちゃったんですが、本論はこれから。最近、そういった意味ではまっている時代小説シリーズがこの高田郁さんの「みをつくし料理帖」です。訳あって上方から江戸に出てきた料理人の澪が、雇われ先の「つる家」の女料理人となって店を繁盛させていく物語。いわゆる江戸の人情物です。澪の幼なじみや、昔の奉公先の女主人、密かに彼女が思いを寄せる浪人風の男など、周囲を彩る人物との人間模様もさることながら、各章のテーマになる料理がいい! 澪は出身が関西ですから、江戸の味にはしょっちゅう戸惑うことになります。そのような地域による味の壁、そして「女の作った料理など食べられるか!」というような性に対する偏見もある中、澪が奮闘していく様がうまく描かれていて、思わず応援したくなる。そして、随所にちりばめられている謎や伏線が、次第に明らかにされていくのも魅力。読者は、真相を知りたくて先を読み進めざるを得ない。このあたり、上手い作家さんだなと思います。そんなこんなで、あっと言う間に既刊の4冊すべて読み終わっちゃいました。あ~、次はいつ? 早くも待ち遠しい…。